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来客は突然あるものだと相場は決まっている。が、それでも、これはいくらなんでも突然すぎやしないか。私はしょぼしょぼとする目をこする。そうしながら、玄関の壁にもたれかかるようにして立っている酒臭い男を見て、更に時計を一瞥した。それによると今はちょうど深夜の3時に差し掛かったところらしい。一つため息をつく。本当に、こういう酔っ払いほど迷惑なものはない。思わずうんざりとした声が出た。 「……レオリオ」 「んー?」 「んー?じゃない。言いにくいんだけど、あんた帰るとこ間違えてるよ」 「はァ? ぜーんぜん間違ってなんかないぜ〜?」 間違ってるんだよ。 私は早くもう一度眠りにつきたくてイライラし、眉間を押さえた。 「ここ、私の家だから」 「だからあってんだろぉー?」 「あってねェよ」 意味もなく伸びる語尾が気に障る。一体 今夜彼はどれだけ飲んだのだろう。レオリオから漂ってくる酒の匂いだけで酔えそうだ。そんなことはあってはならない、と私は頭を振って意識をハッキリさせようとした。だが、元々眠気に支配されていたのもあって、ちゃんと覚醒することはできなかった。 それでも少しばかり効果はあったようで、今まで"どうにかしてこの酔っ払いを追い払いたい"の一点だった考えからもう一つの"いっそのこと居間のソファにでも寝かせてやって自分もとっとと寝よう"という考えに辿り着くことができた。うん、無難だ。それがいい。私はもう一度軽く頭を振ってからあからさまに態度を変え、レオリオに歩み寄った。 「仕方ないから泊めてあげるよ。居間で寝な」 「おォ」 「歩ける?」 「んー」 どっちだ! 曖昧な返事にそう叫びそうになったが、酔っ払いに怒ってもこっちが疲れるだけであるとわかっていたので、ぐっと我慢した。 「歩けるんだったら勝手に居間に行って寝て」 「んー……無理っぽい」 「あ、そう。じゃあ肩を貸してあげよう」 世話のかかる男だ。私はレオリオの片手を自分の肩に回し、自分の手でレオリオの腰あたりを支えた。距離が近くなる分酒臭さが一段と増した。そのせいか、くらくらする。 「あんた、飲みすぎ」 「悪ィ」 意外にも謝罪の言葉がふってきて、驚いた。酒にゆるんでいる頭にも罪の意識があるのか。 「ま、いいよ。こんなでっかい酔っ払いを寒空に放り出すのも、寝覚めが悪いしね」 ふらふらとおぼつかない足取りのレオリオをなんとかして居間まで誘導し、ソファに寝かせた。大の男を支えるために四苦八苦したせいだろう。私の体には若干汗が滲んでいた。シャワーでも浴びたいところだが、それよりも圧倒的に眠い。よし、もう部屋に戻って寝よう。 「」 レオリオは苦しげな声で私の名前を呼んだ。はっとして振り返ると、声だけでなく本体も苦しそうに眉根にしわを寄せている。半ば自分の部屋に戻りかけていた私は慌てて彼の寝そべるソファのかたわらにひざまづいて、どうしたんだと尋ねた。すると、 「……寒い」 彼はそんなことをつぶやいた。 ――まったく、まるで子供だ。 と半分で呆れ、残りのもう半分で安心する。具合が悪いわけじゃなくて、よかった。 「じゃあ毛布取ってくるね」 「いや、待てよ」 彼はそう言いながら、立ち上がりかけた私の腕を掴んで引っ張った。当然私はバランスを崩してレオリオの方に倒れこむ結果となる。 「うわっ」 焦って立ち上がろうとしたが、レオリオの腕にはばまれて身動きが取れない。彼の体の上にうつ伏せになるように、まるで拘束されているかのようだ。 酒の匂いがする。普段はあまり好きではないきつい匂い。でも何故だか今は甘ったるさを感じた。 「ちょっ、何してんの!? 離してよ!」 「寒くて仕方ねェんだ」 「だから毛布取りに行くって言ってんだろうが、離せ!」 もがいてみるが、効果はない。それはそうだ。力では敵いっこないのだから。一人慌てている私と正反対に彼は安心したような、のんきな声を発する。 「あったけえな、お前」 「ちょっと、いい加減にしないとセクハラで訴えるよ。本気で!」 「あったけー」 聞いてないよ、この酔っ払い。私はしばらく抵抗したがそのうち無駄だと悟って動くのをやめた。死ぬほど恥ずかしいが相手は酔っ払いだ。そう思い込んで、耐えようとした。しかし――いくらなんでも我慢できない。恥ずかしすぎる。もう一度もがいてみたが、レオリオの腕はやはりびくともしなかった。頭上から寝息が聞こえてきても、それは変わらなくて。眠りながら腕に力込めてるってどれだけ器用なんだ。 「ちょっと、レオリオ」 声をかけても目覚める気配はない。 「酒臭い……バカ」 ああもう、こうなればヤケだ。これしか道はない。私はそのまま眠ってしまうことにした。もうどうにでもなれ。 (20091016) |