ため息しか出てこない。自分には今あきらかに元気がなかった。いつもの調子はどこへやら、きっと表情も暗く沈んでいるに違いない。別にそうしたいわけではないのに、私の顔が思うとおりの表情を作ってくれないのだ。

きついとか、辛いとか。
具体的な気持ちはない。
ただ、なにかが重くのしかかってきていて、まっすぐ立つことすら億劫。
そんな状態だった。

「いつものバカみたいな元気はどこへ行ったんですか」

紫義の憎まれ口に対抗する気力もない。
私は手を振って、うなるように言った。

「今私はウツっぽいんだよ。いつもの面白い反応は期待しないで」
「別にいつも面白いわけじゃないですけどね」

しれっと言う紫義に若干むかついたが、それも流す。無言を決め込んで一つ息をつくと、森の木元にしゃがみこむ私の隣に、紫義が座る気配がした。

「なにか?」
「珍しい光景なので、なるべく近くで見ておこうと思って」

人が沈んでるっていうのに、この男は……。しかし、もし私が紫義の立場で、紫義が私の立場だったなら、私もきっと今の紫義のように相手を観察しようと思っていただろう。私はまただんまりをきめた。

さあっと風が吹き、やさしく頬をなでる。
遠くで鳥の鳴く声が聞こえる。
外の世界は、なかなか調子がいいみたいだ。

「あのさ、紫義」

そよ風に導かれるように、私は声を発していた。

「本当に、自分にできるのかなって、思ったことない? 自分が努力しても、もうどうしようもないところまで来てるんじゃないか……自分が今更何をしても、結果は変わらないんじゃないかって。だったら、無駄にがんばらずにいた方がいいんじゃないかって」

私が言いたいのは、玄武の巫女についてだった。彼女はきっと玄武を呼び出してしまう。多くの人に支えられ、また彼女も多くの人を支え、少しずつ学んで、一歩一歩成長して、着実に、目的まで距離をつめている。

もしかしたら私たちのしていることは無駄なのかもしれない。玄武の巫女は玄武を呼び出す。そのことは未来の事柄にして、絶対的事実なのかもしれない。そう思うと、ひどく空虚な気持ちになってしまうのだ。

しかしそのことを直接的に言うと、殺されかねない。一部の兵士がこっそりと「冷酷紫義」と言っているのを聞いたことがあるくらいだ。なるべく遠回しに、言葉を選んでいったつもりだったが、意外と分かりやすく言ってしまった気がする。おずおずと隣に座る紫義を見ると、彼は空を仰いでいた。

「そんな不毛なことを考えている暇があるのなら、なにかしら行動してはどうですか」

ああ、ざっくり切られた。
私は苦笑する。
予想通りと言えば、予想通りの返答だった。

「だいたい、あなたは"本当に、自分にできるのか"なんて言っていますが――できるできないではなく、やるんですよ。僕たちは」

意外。
やっぱり、私が本当に言いたいことはわかっているみたいだった。それでも、怒りも咎めも処刑もせず、こうして答えてくれるなんて。

しかし、強い人だなあ。私はつくづく感心していた。できるできないではなく、やるんです。か――そんな台詞、よっぽどの覚悟や自信がないと言えないんじゃないだろうか。

なんだか、つられて力がわいてきた。

「……そうだね」

私は一気に立ち上がり、勢い余って跳躍した。
軽く音を立てて地におり立ち、ぐっと拳を作って、それを見る。

「"やる"んだよね! ごめん紫義、バカなこと言って! よし、やるぞー!」

両腕をあげて、そこで気づいた。もしかして冷酷紫義の寛大な対応は、こんな単純な私だからこそのものか? それしかない気がする。

「単純にバカがつきますね」

紫義はあきれたようにつぶやきながら立ち上がった。

「まあ、嫌いではありませんけど」

ふ、と。
まるで自嘲するようにもらされた笑みにむかって、
得意げに笑って見せた。





(201003)