● 五月五日、夜十一時 ●

(※現代パロディチック 誕生日SS)


 五月五日も残りあと一時間もない。ゴンは残念だという気持ちを溜息に紛れさせて、外の世界に送り出す。今日は友達の誰とも会えなかった。キルアは ちょうど今日の夜中に旅行から帰ってきたらしいし、レオリオはちょうど旅行中。クラピカは塾の合宿で、はゴールデンウィークの前半を遊びすぎたから、と親に外出を禁止されている。よって、彼らと顔をあわせることは不可能だった。

 この最も親しい四人からはメールで「誕生日おめでとう」と祝いの言葉がきて、とてもとても嬉しかったのだけれど、どうせなら実際に会って言って欲しかった。そう思ってしまうのは贅沢だろうか。

 母親であるミトは眠ってしまって、今彼の家で起きているのはゴンだけだ。いつもなら寝てしまっているこの時間、眠りにつこうと努力はしているのだが、どうしても目がさえて眠れなかった。ベッドの中で何度も寝返りを打つ。

「(会いたかったなー)」

脳裏をよぎるのはあの四人の顔。

「(もうすぐ休日も終わるし、すぐに会えるんだけど)」

 それでもどうせなら今日、少しでもいいから、顔をあわせたかった。
 そんなことを思ってもどうしようもないということはわかっているが、思わずにはいられない。頭をからっぽにしようと深呼吸をしてみるが、どうにも空気がまずく感じられるのは、もやもやとする気持ちのせいだろうか。

 もう一つ寝返りを打って仰向けになった時、携帯が鳴った。

「(あ、メールだ)」

 一瞬無視してしまおうかと思ったが、どうせ眠れないんだ、と起き上がる。
 虫型の携帯電話を手にとって開くと、思ったとおりメールが一通届いていた。

「……キルアから?」

 思わず声が漏れる。が、直ぐあとに隣の部屋で寝ているミトのことを思い出し、はっとして口を塞いで文章を読んだ。

 

今直ぐ外に出て来れるか?

 

 まさか。
 ゴンはなるべく音がしないように、そして速く、玄関に向かった。
 サンダルをはいて外に出ると、そこには。

「よっ」
「こんばんは」

 ゴンと同じく寝巻き姿で、自転車に跨っているキルアとがいた。
 時刻は真夜中、暗いことは暗いのだが、月明かりと街頭が二人の姿を照らしている。

「二人ともどうしたの!? こんな夜遅くに」
「しーっ」

 二人は唇の前で人差し指を立てて、ゴンを制した。そしてキルアが小声で指示を出す。

「自転車持ってこいよ。公園に行く」
「え?」
「いいからいいから。ほら、はやく」

 に急かされて、状況が飲み込めないながらも自転車を準備し、またがった。
 用意が整ったゴンを確認すると、キルアは「行こうぜ」と囁いてペダルを踏み込んだ。が続き、更にゴンも続く。

 道には人気がなく、誰とも擦れ違わなかった。すっかり冬が明けて春になったものの、まだほんの少しだけ肌寒い夜。そんな夜に、子供三人がひっそりと自転車に乗って公園に向かっている。それがいいことであるはずはない。だが――いや、「だからこそ」、だろうか。ゴンはどきどきと心臓の鼓動を逸らせる。わくわくする。彼はこの状況を楽しんでいた。それは恐らく、彼の前を走る二人も同じことだろう。

 そのまま夜の公園に辿り着くと、ゴンたちは自転車を置いてブランコに乗った。

「ここまで来ればオッケーだな」
「うん。よし、それじゃ」

 キルアとは「せーの」、と息を合わせた。
 そして声をそろえる。

「ゴン、誕生日おめでとう」
「……ありがとう」

 暗い公園のなかでぼんやりと光る時計は、11時50分頃を示していた。ギリギリセーフ、まだなんとか五月五日である。はほっと胸を撫で下ろしながら口を開いた。

「よかったー、間に合って。実はゴンを連れ出して公園に行こうって思い立ったのは11時頃だったんだよ」
「え、そうだったの?」
「ああ。急にからメールが来てさ。いいなそれってことで、オレも便乗したんだ」
「そうなんだ。ありがとうね、二人とも」

 ゴンが真っ直ぐに礼を言うと、二人は照れたように笑う。

「でもよかった、ゴンが起きてて」
「電話するのは家の人を起こす可能性があるからなー。って、オレは起きてる家族の目を盗んで出てきたんだけどな」
「へえー」

 そこで沈黙が訪れた。
 代わりに、草むらでなく虫の声が大きく聞こえるようになる。色んな種類があるそれらは複雑に重なり合っていて、けれどまるで一つの音楽のようにまとまっている。とても耳障りの良い音楽だ。

「……もうすぐ夏だな」

 ぽつりとキルアが呟いた。

「そうだね」

 ゴンが応じる。
 そのあと辺りはもう一度静寂に包まれた。

 しばらくして、沈黙を破ったのはゴンの心からの感心がにじんだ一声だった。

「二人とも、凄いなあ」
「なんだよ、急に」
「だってオレ、どうしても誰かに会いたくって。……顔を見ながら「おめでとう」っていってもらいたくて、眠れなかったんだよ」
「この時間まで?」
「うん」
「諦め悪いねー。そういうのもゴンの美点だけどね」

 はクスクスと笑いを漏らす。
 そうかな、とゴンは笑った。そして続ける。

「だから二人は凄いなって。オレが会いたいって思ってたら、会いにきてくれたから」
「まあ、私達もゴンに会いたかったしね?」
「ああ」
「えへへ、ありがと」

 ゴンは空を見上げる。公園に植えられた木々が、バランスよく星の輝く夜の空を縁取っていた。
 つられてキルアとも空を仰いだ。

「オレね」

 ゴンは静かな声で、そして優しい声でこう言った。

「キルアと、そしてに会えて本当に良かったって。そう思うよ」

 その言葉を聞いて、二人は息を飲む。次に彼らは恥ずかしいやら何を言っていいかわからないやらで困り、顔を見合わせた。そんな二人をよそに、ゴンは空に向かって笑いかける。

「(来年も一緒にいられるといいな)」

 声には出されなかったゴンのその強い願いを、きっと星々は受け取ってくれたはずだ。