04
 

 いよいよ、決行の日だ。といっても盗みが生活の一部になっている節のある二人には、まったく気負う様子はない。あっさりと博物館に忍び込み、大勢の見張りや複雑な防犯セキュリティを全て突破し首尾よく目当てのものを手にした。その手さばきは見事の一言である。

 恐らく派手に暴れられなかったから不完全燃焼の気分なのだろう。ウボォーギンは酷く退屈そうな様子で欠伸をする。その足元で、催眠ガスを吸った警備員たちが伸びていた。

「あー……つまんねえ」

 もう一度出かけた欠伸をかみ殺しながら、ウボォーが言う。

「まあまあ。お目当てのものは手に入ったわけだし」

 シャルナークは笑ってそう言い、小型犬ほどの化石が入ったガラスケースを用意していた袋に詰め込んだ。そして「オーケー、行こうか」と扉の方を振り向いた瞬間、その目付きに剣呑な光を宿した。

 何者かが近づいてきている。

 ウボォーも気付いていると確信しているからこその無言。二人はじっと扉を見つめた。少し経つと、足音がちょうど彼らのいる部屋の前で止まり、内開きのドアが――開いた。

「そろそろ交たっ」

 見張りを交代しに来たらしい男は、きっと自分に何が起こったのかわからなかったに違いない。扉を開いた瞬間に金髪の男が目の前に現れ、次の瞬間は意識を奪い去られてしまったのだ。
その様子を見て、ウボォーギンが溜息をつき、一言。

「今回はテコでも殺しはしないんだな」
「ウボォーはやってもいいよ? オレはしないけどさ」
「……占いだったか? 今お前が殺しをしない理由」
「ああ」

 シャルナークは見張りの男への対処をするときに一旦床におろしていた荷物を抱えなおした。

「そんなに当たんのか」
「今度ウボォーも見てみたら?」
「いや、遠慮しとく。ガラじゃねえしな」
「はは、そうだね」

 それ以降は二人の前になんの障害も現れなかった。こうして二匹の蜘蛛は、まんまと一連の盗みをやってのけたのだった。



 潜伏先に戻ったウボォーは、「で」と口火を切った。

「どうする。この街とももうおさらばか?」
「……いや」

 シャルナークは戦利品を袋から出し、あぐらをかいて座っている自分の目の前にそれを置いてから口を開く。

「オレはとりあえずこれを隠して、その後はしばらくここに留まることにするよ。団長からの召集の便りはないし。ウボォーはどうする?」
「オレも特にやることがねえしな、何か思い立つまでここにいるぜ」

 二人は簡単にこの場所での滞在を決めた。盗みを働いて尚、この街に留まることになんの不安も抱かないらしい。これは絶対に犯人が自分たちだとはバレないという自信の表れなのか。それともバレたとしても別段問題はないという自信の表れか。あるいはそのどちらもなのかもしれない。

「ところで、ウボォー、この化石って何かの祖先かな?」
「奇妙なナリしてんな。色んな動物を足して三で割ってるように見えるぜ」
「うーん……ペットにはしたくないな、絶対」



 盗みが決行された翌朝の新聞のトップには窃盗事件が大々的に掲載され、町中でその話について囁かれた。この事件に関して様々な組織が動いたが、一週間が過ぎても、誰も二人の犯行を突き止めることは出来なかった。PCで調べた情報によると唯一シャルナークを目撃しかけた警備員の男も、犯人が金髪だということしか記憶になく、「顔を見ればわかるかもしれない」といった程度らしい。

「(この男にはとりあえず注意しとかないとな)」

 シャルナークは一人で頷き、タン、とリズミカルにキーボードを叩いた。少し勢いをつけて椅子からおり、外へ出る。一週間ぶりの外の空気に触れ、彼はぐっと背伸びをした。

「(そろそろに会いに行こうかな。話の続きも気になるし)」

 それに、彼女の中でもちゃんと考えがまとまっている頃だろう。

 ウボォーはどこかに出かけているし、特にすることもない。思いつきを実行することにして、久々にシャルナークは街の人ごみに紛れた。