混沌の二文字がよく似合う場所だった。
右を見ても左を見ても、本、本、本。
しかし図書館などそういう施設とは違うところがある。
まったく整頓されていないのだ。文字通り「本の山」がいたるところに出来上がっている。手のつけようがないくらいに、そこは雑然としていた。
しかしそれが悪いことだとは言い切れない。
環境はいいとはいえないが、それが作り出す空間の雰囲気はしっとりと落ち着いたものだ。まるでどこかのファンタジーの世界にでも紛れ込んだかのような気分にさせる場所だった。
よくみると沢山の本たちの中に埋まるようにして、一人の女が書物に目を通していた。
女のかたわらにかろうじて一角をあらわしているレジらしき機械、そしてこの空間に入る前に何とか目に入った、薄れきった"Old
Books"の看板からここは古本屋なのだろうとやっとのことで推測できた。
「……いーらっしゃいませー……」
一足遅れた女のやる気のない挨拶に確信する。
ここはその機能を果たしていないように見えるが、一応は店なのだと。
見て回るのも一苦労だ。まったく、客に優しくない店である。
そんな状況にもクロロは眉をぴくりとも動かさず、山に埋まっている本一冊一冊を品定めしていく。たまにその手が止まり、そのたびに左手に抱えられた書物の量は多くなっていった。
店員らしき女の視線が彼女の両手におさまっている本から離れる気配はない。それをいいことに、クロロは女に気付かれないまま、本を抱えて外に出た。本を盗られたことに、読書に没頭している店員は気付くようすもなかった。
余裕をもってゆったりとあるく。
知らない内に、クロロの顔には笑みが浮かんでいた。
「(久しぶりにいいところを見つけたな)」
しばらくの間、自分はあの本屋に通うことになるだろうと予感する。
そしてその勘は的中することになった。