Scene04

 

 

訪問の回数を重ねるごとに、はクロロに心を開いていった。
扉が開いてクロロの姿が見えると、ちゃんと本から顔を上げて座ったまま会釈もどきをし、「いらっしゃいませ、ルシルさん」と言うようになったのだ。

最初の「……いーらっしゃいませー……」の時と比べると別人のようである。常連の人間に態度が柔らかくなるのはあたりまえかもしれない。

しかしここで一つ思い出してもらいたい事がある。
それは、クロロが一度もこの店の客としてきたことがないということだ。が歓迎しているのは、ただの本盗りであるということを忘れてはいけない。

そう考えると、「あたりまえ」なんて言っていられないはずなのに、は当然のようにクロロを歓迎した。も変わっている、ということだろう。もしくはなんらかの事情があったのかもしれないが、クロロはそこまで興味をもたなかった。

 

その日、昼頃にクロロが古本屋に足を踏み入れた時、は珍しく食べ物を頬張っていた。

「は、ひらっひゃいまひぇ。ふひふはん」
「どうも。……君が物を食べているところなんて初めて見た」

ごくん、と口に入っていたサンドウィッチの一部を飲み込む

「一応ひとですから、食べないと死にますし」
「それはそうだ」

クロロは店の奥へ奥へと進んで行く。この店は、見かけは小さいものの、奥行きがかなり深いということがわかった。本の山ならぬ本の壁を越えていくと、その先に更なる本の壁がある。それら一つ一つを確認して先へ進んでいくのは、意外と時間のかかる作業だった。

どのぐらいたっただろうか。
クロロが店の奥からカウンターまで戻ると、は既に読書を再開していた。
それはそうだ。クロロが訪れてからすでに3時間は経過していた。

「一つ、聞きたいんだけど」
「?」

は心持ち視線を本から逸らして、聞き耳を立てる。

「これだけの本、どうやって集めたの?」
「両親とその両親とその両親と……まあ、簡単に言うと先祖代々物好きが多い家系で。あと、たまに道端に捨ててあったりするのを拾ってくるんです。それできれいにしてここに出したりして」
「そういえば、ご両親は……見たことがないけど、他の場所ではたらいてるとか?」
「いませんよ」

はあっけらかんと答えた。

「この街、治安悪いじゃないですか。それで数年前に気の狂ったアホに刺し殺されました。ちなみにわたしは、両親の遺産でなんとか暮らしているわけです」
「ふーん」

もし彼女が気に病んでいたならば、気の毒に思っているように演技していただろうが、があまりにも頓着のない口調でそういうものだから、ついついそっけない返事をしてしまった。しかし予想通りと言うべきか、は悪く思った風はない。

旅団の仲間を相手に話すときほど気楽に、ありのままに話せるというわけでは絶対にないが、とクロロは思った。

は。一般人にしては、随分と話しやすい相手だ。

わけもなく、紅茶が飲みたくなってきた。

「あ、ルシルさん。紅茶いります?」
「……ちょうど欲しいと思ってた。なんでわかった?」
「え、別にルシルさんの気持ちを察知したわけじゃないですけど。強いて言えばなんとなくです」
「なんとなくか」

どこかで聞いた会話だ。

 

- - - - - - - - - -

 

はオレの気持ちが読めるかのように、その振る舞いはオレがまさに「こうだったらいい」と思うものだった。オレについて干渉してくることは依然としてない。

話すときは話し、オレが黙ってほしいと思っているときにはなぜか自然とそれがつたわり、はなにも言わなくなる。たまに紅茶がほしいと思うと、それがその通りに出てくることもあった。本当にその手の能力が使えるのかもしれないと思ったが、には突出した特殊能力はない。オレの目に間違いはない。

ただきっと、オレたちは純粋に気が合うのだ。

のことは気に入っていた。また、この店の空気も気に入っていた。

ここは、居心地がいい。